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2018年10月12日 (金)

宣銅烈監督はつらいよ

 近年、韓国の新聞では漢字がほとんど使われなくなったが、漢字が結構使われていた1990年代半ばごろ、毎年秋になると、新聞には「国監」の文字が目立っていた。「国監」とは国政監査のことで、証人を国会に呼んだり、国会議員が現場を査察したりして、幅広い問題を調査する、国会の秋の恒例行事だ。

 傍からみていると、問題の真相を究明したり、解決の道筋を探ったりするよりも、国会議員が関係者を呼んで、罵倒する場という感じがしないでもない。

 その国監の場に、野球の韓国代表監督である宣銅烈が呼ばれた。宣監督は現役時代「野球国宝」と呼ばれ、80年代から90年代にかけの韓国野球最高のスターであり、中日の抑えとしても活躍した。

 その宣監督が国会に呼ばれたのは、アジア大会で優勝したものの、選手選抜に当たって、兵役免除の恩恵を受けるための「不正請託」の疑惑が持たれたからだ。

 オリンピックのメダリストと、アジア大会の優勝者は兵役が免除されるが、アジア大会の野球の場合、優勝を狙えるのは、日本、韓国、台湾に絞られる。日本の場合、プロはおらず、全員社会人野球の選手だ。台湾もプロ・アマ混成で、プロ野球シーズンを中断して、全員プロで臨んだのは韓国だけであり、優勝の可能性は非常に高い。それだけに、代表選手に選ばれれば、兵役が免除になる可能性が高いわけだ。

 代表選手の中で、とりわけ批判の矢面に立たされたのが、LGの遊撃手・呉智煥であった。高校時代は投手と遊撃手の二刀流で鳴らし、プロに入っても、韓国球界を代表する遊撃手になった。

 ただ今回批判の対象になったのは、最近は目立った成績を残していないことに加え、昨年、軍隊のチームである尚武に入って兵役期間を送ることができたにもかかわらず、そうしなかったことに、あらかじめ、代表に選ばれる裏の約束があったからではないかという、疑惑が生じたからである。

「国監」では、国会議員から「請託ないか」と聞かれ、宣監督は「ありません」と答えていた。「請託」と言われると構えてしまうし、金銭など裏の取引があれば問題だが、代表の監督・コーチと各球団の関係者とは長い付き合いであり、「頼むよ」くらいのことは、言われても不思議ではない。

 また、「実力が似たような場合、兵役を終えていない選手を優先することはなかったか」という質問も、「ありません」と否定している。ただ、兵役を終えていない選手の方が、モチベーションが高いのは確かで、国民感情はともかく、兵役を終えていない選手を優先したとしても、本来責められるものではない。

 こうしたやり取りを、私は主にユーチューブなどを通して見た。別に宣監督の肩を持つつもりはないが、見ていて気の毒になってきた。

 こんなやり取りもあった。名前を隠し、Aという選手の成績と、Bという選手の成績をみて、どちらを選ぶかという質問に、「Bの選手の方が成績はいい」と宣監督が答えると、呉智煥はAだと責められる。

 それに対して宣監督は、成績が重要だが、夏場はベテラン選手の疲労がたまっており、若い選手の方が活動できることを説いていた。

それはその通りで、アジア大会は8月下旬であったが、ベテラン選手なら毎年疲労がたまるこの時期は、休めるものなら休みたいだろう。

 それに、代表チームはオールスターチームではない。右打者と左打者、長距離打者と機動力を使える選手のバランス、負傷選手が出た場合、どう対処するかなど、いろいろ複雑な要素を加味して、選考しなければならない。代表選考の会議には3時間を要したそうだが、国会議員からは、「そんなに時間がかかる理由は何か」という質問も出ていた。コーチなど代表スタッフの会議で決めるのなら、そう簡単には決まらないだろう。

 監督としての年俸は2億ウォン(約2000万円)であり、そのお金はプロ側の組織であるKBO(韓国野球委員会)から出ていることを宣監督が答えると、「だからアマチュアの選手を選ばないのか」と、質問する国会議員もいた。宣監督も、こらえていたようだが、質問のレベルの低さに、辟易しているようでもあった。

 オリンピックなど野球の国際試合に、プロの選手も参加できるようになったのは、1996年から。当時、韓国人最初のメジャーリーグ選手である朴賛浩が、ドジャーズの中心投手と活躍しており、彼の兵役をどうするかが、大きな社会問題となっていた。そこで合法的に兵役が免除になる手段として、98年のバンコク・アジア大会に朴賛浩を含めたプロの選手が参加したというのが、そもそもプロ野球の選手がアジア大会に参加するようになった理由である。

 以後、既に兵役が免除になっている選手が、まだ兵役義務を終えていない若い選手のために、アジア大会での勝利に貢献することが、韓国球界の美談のようになっていた。

 ただ時代が大きく変わり、不公平感に社会が敏感になってきた。社会的不公平の象徴的な存在が兵役問題である。

 とはいえ、40代までプレーする選手もごく例外的に存在するが、ほとんどの選手は、現役で活動できる期間は短い。したがって、兵役による約2年の空白は、大きな痛手であることは確かだ。

 それに朴賛浩がそうであったように、海外で活躍している選手も、兵役のために活動を中止しなければならないのかという問題もある。サッカーの孫興民(トットナム)は、今回のアジア大会で優勝していなければ、欧州での選手生活は危機を迎えることになっていた。

 こうした問題は、民間人では解決できない。国会議員ならば、こうした問題にこそ向き合うべきであろう。

 スポーツに関する問題は、世間の関心を集めやすいため、政治家が関わると、どうしてもスタンドプレーに走りがちだ、これは、どこの国の政治家も、気を付けてほしい問題である。

 

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