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2016年12月28日 (水)

韓国の2016年~「情」が廃れ、不信と「恨」が残った

 秋以降、朴槿恵大統領の弾劾に至る過程は、ドラマ以上にドラマチックだった。この弾劾劇、突然吹き荒れた嵐のようにみえるが、いくつかの予兆があった。

 まず4月の総選挙では、政権与党が敗れ、朴大統領の影響力は低下した。そして8月15日の朴大統領の演説では、「世界がうらやむ我が国を、生きづらい所だと卑下する新造語が拡散されている」と発言し物議を醸した。

 近年韓国では、格差社会が深刻化し、若者の失業者が増加するといった状況が地獄のようだということで、「ヘル朝鮮」という言葉が広がっている。本来、こうした状況を改善すべき為政者が、現実を理解せず、むしろ「ヘル朝鮮」などの言葉を非難したのだから、若者の怒りの火に油を注いだ。

 8月下旬には、朝鮮日報が朴大統領の側近である禹柄宇大統領府民政首席秘書官の不動産取引の不正に関する記事を掲載。すると朴大統領に近い与党議員は、巨額の粉飾決算が問題になっていた企業から朝鮮日報の主筆が豪華接待を受けていた事実を暴露し、主筆は辞任に追い込まれた。

 韓国人、特に若者は、大手メディアをあまり信用していないが、大手メディアの腐敗ぶりが露呈した格好だ。この一件で大統領府と朝鮮日報の対立が激化した。もともと与党に近い保守系大手メディアとの対立は、朴政権の落日近いことを予見させた。そして秋になると、国を挙げて朴槿恵大統領の退陣運動が起きた。

 朴槿恵政権の4年間を振り返ると、歴史教科書の国定化や、朴正熙政権が推進した農村振興事業であるセマウル運動の普及を国連の場で訴えるといったように、父親である朴正熙の名誉回復に力を注いでいたように思える。

 母親に続き、父親も銃殺されと、父親の近くにいた人も背を向け、父親は独裁者として非難された。朴槿恵の心の中には、多くの恨(ハン)が、籠っていたのだろう。

 一方、朴正熙のクーデターに始まる軍事政権の時代に民主化運動をしていた当時の学生たちにも、弾圧され、多くの恨が残った。そして、今の若者たちも、格差社会の中で、自分の国を地獄と感じるほどの恨を抱いている。

 今回の朴政権退陣運動は、軍事政権時代に恨を持った世代と、絶望の中にいる今の若い世代の恨が合体して、他の世代にも広がっていった感じだ。いわば、恨と恨がぶつかり合ったわけだ。

 1980年代、日本では第1韓国ブームという現象が起きていた。私が韓国に関心を持ったのも、この時期である。この頃日本では、「韓国は恨の国」というイメージが強かった。恨(ハン)とは、単なる恨みではなく、重く、つらい気持ちが、心に根を張ったような状態をいう。

 しかし実際に韓国で暮らして感じたのは、韓国は陽気な「アジアのラテン」であり、情が深いということだった。もっとも「アジアのラテン」は、否定的に捉えれば、いい加減であり、情の深さは、方向性を間違えれば「情実」になり、不正の温床になる。

 こうした不正を防止するため、928日から「不正請託及び金品授受の禁止関連法」いわゆる「金英蘭法」が施行された。この施行により、会食は3万ウォン(約3000円)までなど上限が決められ、違反すれば、罰金、場合によっては、懲役の対象になる。しかも違反者を通報すれば、報奨金が得られるとあって、互いに監視するような状況になった。

 もともと韓国には、相互不信というものが、根強くある。今年もそうした不信を増幅させる出来事が、相次いで発覚した。

 空気が乾燥している韓国では、加湿器は必需品であるが、その殺菌剤の中に、人体に有害な成分があり、多数の死傷者を出した。しかも政府は5年前に殺菌剤による被害を把握しながら、今年になるまで、ほとんど手を打たないでいた。

 5月には、離島に赴任した若い女性教師が、児童の親を含む3人の男性に強姦されるという事件が起き、社会に衝撃を与えた。

 根深い不信感というのは、スポーツも同じで、今年もプロ野球では八百長が相次いで摘発されたほか、サッカーのKリーグでは、チーム関係者による審判の買収も発覚した。

 映像技術の進歩により、野球、サッカー、バレーボールなど、多くの競技で、ビデオ判定が導入されるようになった。日本ではビデオ判定について、審判の権威が傷つく、試合の流れが途切れるなど、否定的な見方もある。けれども韓国では、積極的だ。それだけ、審判に対する信頼がないことを意味している。

 その一方で、人工知能も進化し、3月には、人工知能・アルファ碁が、世界最強の棋士の1人である李セドル九段と対決し、4勝1敗と大きく勝ち越した。人間の不信感が深まる一方で、人工知能が発達していくと、突き詰めると、人間不要につながりかねない。

 来年は、アメリカにトランプ政権が誕生し、韓国では大統領選挙がある。社会はますます混迷の度を深めている。それでも、人間の営みの中で積み重ねてきたものは、安易に壊すべきではない。

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